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No.173  折原 征一(おりはらせいいち)

毎日100回腕立て伏せを欠かさず、「精神統一、無の境地を得るために、毎年元旦には滝に打たれ南アルプス七面山に登山し、山頂から御来光を拝む」と言う折原さんは、東京商工会議所荒川支部副会長も務めている。

「人を活かし、ものを活かす」もの作りの達人

「サンパール荒川」や「町屋文化センター」を利用した区民の方ならお気付きだろう。トイレを使用中、人に聞かれたくない音を消す「エチケットーン」、さらにトイレットペーパーが片手でも必要な分だけ簡単に切り取れる「マホールダー」が設置されていることを。この二つは、利用者にとって便利なことはもちろん、税金でまかなわれる水と紙の使用量の節約に役立っている。そしてこのアイディア商品を考案、実用化したのが折原征一さんである。

エチケットーンの商品パンフレット

ペーパーホルダーの商品パンフレット

創業以来、トイレ、水回り製品を開発販売

折原製作所は征一さんの父辰雄さんが昭和13年に台東区に木工所を創業したことに始まる。戦後荒川区に移転、日本初のトイレ用樹脂製防露タンクを開発、以後、簡易水洗便器などをはじめトイレまわりのサニタリー製品の輸入、開発、販売をすることとなった。
「当時は、簡易水洗便器を販売するため、なかなか下水道の整備が進んでいなかった日本中を駆け回る日々が続きました」と折原さん。その後も快適なトイレ空間を目指して製品改良を続け、折原製作所で生産する簡易水洗トイレ「アクアサイクル」は昭和62年に建設大臣認定を取得。神戸の大震災の時、仮設住宅に大量の簡易水洗便器を提供、設置したのも折原製作所であった。
折原さん自身は区内の小、中学校を経て、日本大学理工学部に進学、経営工学を学ぶ。レオナルド・ダビンチに憧れ、人間工学の研究に没頭する中で、学者への道を志したこともあったというが「父が苦労して製作所を経営している姿を見ていましたから、なんとかこの会社を大きくしていきたい」と思い製作所の跡を継ぐことを決意したのだそうだ。

独自の商品で新しい世界を切り開く

「アクアサイクルは、洗浄水がごくわずかで利用できるくみ取り式トイレ用簡易水洗便器なので、水洗音が小さい。でも、日本では女性がトイレを利用する時、エチケットとして必要以上に水を流す習慣があるので水洗音が小さいのは困るわけです。そこで最初はアクアサイクルの付属品として、使用時の音を消すためにICを利用した電子合成音発生装置を開発したのです。それが昭和54年。東京都の水不足と重なり、節水のためにこの装置が利用できると評判になり商品化されました」と「エチケットーン」誕生のいきさつを語る。また、ペーパーホルダーのカッター部にテコと重力を利用して、片手でも簡単に必要なだけ紙を切り取れる魔法のペーパーホルダー「マホールダー」も、もともとは脳内出血で半身が不自由になった友人が介護人なしでも使えるようにと、考案したアイデア商品だという。
折原さんのモットーは「人を活かし、ものを活かす」。現在は配管パイプの水漏れなどを簡単に補修できる魔法の包帯「マホータイ」(アメリカの特許商品)、また「オリステープ」(世界11か国の折原製作所の特許商品)の全国ネット作り(一部国外)に取り組む。これらの製品は、配管パイプから、水などが噴き出している状態のまま、漏れたか所に包帯のように巻くだけで完全に補修でき、今までは、新しく交換しなければならなかったパイプを、何年も延命させることができ、地球資源の保全に役立っている。工場、ホテル、病院、発電所、船舶などパイプのある所なら、ほとんどで使用されているそうだ。
「困っている人たちが、少しでも喜んでくれればいいなあと思っています。ブランド志向や多機能装備といった表面的な豪華さに目移りすることなく、生活の場に根ざした、ユーザーにメリットのある製品を供給していきたいと思っています。社員には一週間に一つずつ新しいアイデアを出せと言っているんですよ(笑)」と語る折原さん。西日暮里の事務所と栃木工場を忙しく行き来しながら、人に優しく、環境に優しいユニークなもの作りを自ら実践。荒川区を代表するもの作りの達人である。