「人を活かし、ものを活かす」もの作りの達人
「サンパール荒川」や「町屋文化センター」を利用した区民の方ならお気付きだろう。トイレを使用中、人に聞かれたくない音を消す「エチケットーン」、さらにトイレットペーパーが片手でも必要な分だけ簡単に切り取れる「マホールダー」が設置されていることを。この二つは、利用者にとって便利なことはもちろん、税金でまかなわれる水と紙の使用量の節約に役立っている。そしてこのアイディア商品を考案、実用化したのが折原征一さんである。
創業以来、トイレ、水回り製品を開発販売
折原製作所は征一さんの父辰雄さんが昭和13年に台東区に木工所を創業したことに始まる。戦後荒川区に移転、日本初のトイレ用樹脂製防露タンクを開発、以後、簡易水洗便器などをはじめトイレまわりのサニタリー製品の輸入、開発、販売をすることとなった。
「当時は、簡易水洗便器を販売するため、なかなか下水道の整備が進んでいなかった日本中を駆け回る日々が続きました」と折原さん。その後も快適なトイレ空間を目指して製品改良を続け、折原製作所で生産する簡易水洗トイレ「アクアサイクル」は昭和62年に建設大臣認定を取得。神戸の大震災の時、仮設住宅に大量の簡易水洗便器を提供、設置したのも折原製作所であった。
折原さん自身は区内の小、中学校を経て、日本大学理工学部に進学、経営工学を学ぶ。レオナルド・ダビンチに憧れ、人間工学の研究に没頭する中で、学者への道を志したこともあったというが「父が苦労して製作所を経営している姿を見ていましたから、なんとかこの会社を大きくしていきたい」と思い製作所の跡を継ぐことを決意したのだそうだ。
独自の商品で新しい世界を切り開く
「アクアサイクルは、洗浄水がごくわずかで利用できるくみ取り式トイレ用簡易水洗便器なので、水洗音が小さい。でも、日本では女性がトイレを利用する時、エチケットとして必要以上に水を流す習慣があるので水洗音が小さいのは困るわけです。そこで最初はアクアサイクルの付属品として、使用時の音を消すためにICを利用した電子合成音発生装置を開発したのです。それが昭和54年。東京都の水不足と重なり、節水のためにこの装置が利用できると評判になり商品化されました」と「エチケットーン」誕生のいきさつを語る。また、ペーパーホルダーのカッター部にテコと重力を利用して、片手でも簡単に必要なだけ紙を切り取れる魔法のペーパーホルダー「マホールダー」も、もともとは脳内出血で半身が不自由になった友人が介護人なしでも使えるようにと、考案したアイデア商品だという。