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No.168  師田 範子(もろた のりこ)

1本の糸からこの世でたった一つの物をクリエイトする喜び

JR西日暮里駅前にある蕫東京ニットファッションアカデミー。校長の師田範子さんは、クリエーターとしてはもちろんニットファッションのプロフェッショナル育成に関しては業界で知らぬ者がない実力者である。

ニットデザインのプロを育成
「育ったのは、西日暮里の諏方神社の前。両親がここで編み物の専門学校を経営していたんです」という師田さんは、共立女子大学に進学。洋裁、和裁、編み物、デザインに至る服飾全般を学ぶ。「母は私を経営者の2代目にしたかったのね。でも本当は私、絵を勉強したかったんですけど…」と師田さん。小さいころから母親の編み物を見よう見まねでまねていたという彼女だが、学生時代からめきめきと腕をあげ、卒業後はクリエーターとして婦人雑誌等に次々とニット作品を発表、デパートで手編みのニットショーを開いたり、NHKの婦人百科の講師を務めたりと忙しい日々が始まった。

荒川区でも生涯学習の一貫で編み物の講座を担当。センスの良さと教え方のうまさでは定評があり、毎回受講を楽しみにしているファンも多い。

師田さんは「ニットはハイテク産業、私もコンピューターが大好き」という。編み物とハイテクのイメージが一致しなかったが、学校内を案内していただいて納得した。業界の最先端で使われているのと同じ工業用の編み機と、それを動かしたり製図をするためのコンピューターシステムが完備された教室。学生たちはここで2年間編み物の実技はもちろん、ファッション、ビジネス、デザインの基礎から工業用機械の使い方まで、企業に入社後即戦力として働ける手編みとニットのすべてを学ぶ。「何千万円もする機械の設備投資は持ち出し」と笑う師田さんだが、今から15年前、まだ一般にパソコンも普及していない時代に、「国内ニット業界の活性化のためには優秀な人材を育てることが第一」と、こうしたハイテク設備を導入した師田さんの先見性とニットにかける情熱はなみなみならぬものがある。学生数は一学年どんなに多くても25人まで。自ら面接をして、やる気のある学生しか取らない少数精鋭主義。結果、この不況にあっても、就職率は100%、しかも大半が業界トップ企業のデザイナーに就職するという。

常にチャレンジ精神を持って
教室にはニット用の糸が2千本、師田さんのご自宅の糸倉庫には常に6千本以上がストックされている。学生たちはここから好きな糸を選び作品を創り上げていく。
師田さんはニットの魅力について「1本の糸でどんなものでも創れる無限の可能性かしら。ニットは奥が深いから」と語る。創作、そしてニット教育の第一人者である彼女の源泉は「何にでも好奇心を持つもつこと」とか。

学校で教えるかたわら、企業の人材育成にもたずさわり、ヨーロッパで毎年開かれる素材展や見本市に作品を出品したり、JICA(ジャイカ/国際協力事業団)のスタッフとして発展途上国へ出かけ編み物産業育成の指導にもあたる。将来は「カンボジアで現地の人たちが編み物を学ぶ学校を開き、地域の産業育成の手助けをしたい」という夢もある。

「ニットは知的集約産業。デザイナーだって基礎的な技術力はもちろん、提案力があり、トレンド分析ができではじめてビジネスになる」というポリシーを自ら実践するパワーウーマンである。