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No.138  北島 康介(きたじま こうすけ)

期待の新星 伸び盛り17歳
頑張れ!荒川っ子 五輪舞台で

4月19日、江東区辰巳の東京都国際プールで行われた水泳日本選手権。

なかんずく、男子平泳ぎ100m決勝は大いに盛り上がりました。バルセロナ五輪で4位入賞のベテラン・林享選手と、若手の北島康介選手との実質的な一騎打ち。技術と経験の林か、スピードと勢いの北島か。会場は異様な熱気に包まれました。

前半の圧倒的なスピードで勝負を付けようと一気に突き進む北島に、ターン後ジリジリと迫り寄る巧者の林。

結果は、1分1秒41の日本新記録をマークして北島選手が優勝。敗れた林選手とはコンマ1秒の僅差でした。

2人の記録は、昨年の世界ランキングでは3、4位に並ぶほどの好タイム。低迷が叫ばれて久しい日本の男子平泳ぎが、にわかに脚光を浴びることになったのです。

「飛び込んだ瞬間に、これはいけるなと思いました」

北島君は本郷高校の3年生。17歳ながら、多くの大会で破竹の快進撃を続ける力強さを裏打ちするような、心憎いひとことです。

北島君が水泳を本格的に始めたのは8歳からでした。折から、テレビでバルセロナ五輪で活躍する林選手の雄姿を仰ぎ見て「すげえなあ」と、あこがれることしきり。

「あのときは、単純にあこがれただけで、自分が林選手と争えるようになるなんて、想像もできませんでしたね」

あれから8年。仰ぎ見た林選手に勝ってしまったわけです。記録も塗り替えて。

「簡単に勝たせてもらったって言うとおかしいかもしれませんが、トントン拍子に進んでしまったんです」

学生服に身を包んだ176センチのスラリとした長身。鋭い眼光のはざまに、少年のあどけなさが時折チラリ。

「4年前は日本選手権にも出ていないんです。3年間で伸びてしまった。いまは大会に出るたびに、速くなっていくのが自分でよくわかるんです。びっくりしますよ」

おのれの肉体にみなぎるパワーをひしひしと感じるようで、話しながらも笑みがこぼれます。

当然ながら、日本選手権での勇躍が評価されて、シドニー五輪の平泳ぎの選手として21人の水泳選手団の1人に選ばれました。平泳ぎでは林選手とのワンツーコンビ。

これは快挙です。北島君が五輪選手として出場するということで、荒川区民を始め、周囲の関心と期待は、尋常ではありません。

「このあとの合宿で調整していきます。五輪に出るからには、自分の力を出し切りたいですね。いちばん大きい大会ですから、周りにのまれずれに力を出すことが課題です。それと、なんといっても、いままでに味わったことのない経験になると思うので、どこまでできるかが楽しみ。ワクワクしますね。思いっきり頑張ってみたいです」

メダルをもぎとる想いが伝わるひとこと。突き抜けるような明るい表情とえぐるように挑むしぐさが、ひとかどの選手をにおわせます。

「精一杯泳いでみて、結果がよかったら、それでいいっていう感じですね」

すでにどこか悟ったような風情。日ごろはマンガを読んで気分転換、大会前夜は十分な睡眠で備えるとか。おのれの精神と肉体を、巧みにコントロールできるのが秘訣のようです。一流の選手だけが持っている特有の資質なのかもしれません。
シドニー五輪は9月15日から始まります。北島君の雄姿をテレビで仰ぎ見て次の五輪を目指す少年少女が、きっと現れることでしょう。

読売記者・佐川 和之
カメラ・原 和巳