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No.86  雫 弘幸(しずくひろゆき)

人気テレビ番組の構成や台本
「荒川を舞台にした作品をぜひ」

放送作家とは聞き慣れない職業ですが、テレビ番組の構成を考えたり台本を書いたりする仕事。言わば裏方さんです。一見地味ですが、これまで手がけたのは「クイズ百人に聞きました」「知ってるつもり!?」「そこが知りたい」など、おなじみの人気番組ばかり。現在も日曜の「噂の!東京マガジン」(TBS)の人気コーナー「平成の常識・やってTRY(トーライ)」などを担当しています。

「子供のころから映画が大好きで、最初は映画監督になりたかったんです。けれど簡単にはなれない。じやあ、タレントになってから映画を撮る方が早いかなと思い、タレントを目指しました。大学生の時、お笑い芸人の研究生になり、寄席に立ったこともあります」

在学中からコント作家の仕事を始め、ラジオ出演もしていた時、転機が訪れました。放送作家を集めた事務所が設立され、作家一筋で仕事をすることになったのです。

「テレビ画面に最初に名前が出たのが、ビートたけしさんの『OH!たけし』というコント番組。名前こそ出ませんでしたが、クイズ番組『世界まるごとHOWマッチ』の司会、大橋巨泉さんが冒頭に言うジョークも考えたことがあります。まだ駆け出しのころは、演歌番組で北島三郎さんの取材に行き、すっかりあがってしまったこともありました」

芸能の道に進んだのは、南千住で米屋を営むかたわら「汐入劇場」という芝居小屋を開いていた、祖父の影響かも知れないと言います。

「旅回りの一座を招いて興行を行っていたそうです。自宅に当時の太鼓が残っていて、近所の人からもよく話を聞かされました。その影響か、中学三年から高校一年にかけては、演芸場にもよく出かけ、まだ売れないころの漫才コンビ、ツービート、ユートピア、B&Bなどを見ていました。その後の漫才ブームが、この世界に入った直接のきっかけでしょうね」

偉人の生涯をたどる日本テレビ「知ってるつもり!?」では、淀君、織田信長、グレース・ケリーなどの構成を手がけました。

残念ながら、まだ荒川出身の人を取り上げたことはないそうです。

「地元だけに、かえってやりにくい。白鬚西地区再開発についても、自宅周辺が対象になっているので、知人のテレビ関係者に聞かれて事情を説明したりはします。けれど、自分では思い入れが強過ぎますね。作家の役割は、演出家の思い入れを抑えバランスを良く仕上げること。戦国時代で言えば大名をいさめる軍師ですから」

歌麿の浮世絵に魅せられて日本浮世絵協会会員にもなっているように、時代小説の世界が大好きとか。

「祖父も父もテレビの時代劇が大好きで、一緒に見ていました。所属事務所でも、歴史物の仕事と言えば僕が指名されるくらい。池波正太郎の作品にも南千住が舞台として登場したりするんですよね。いつか番組で荒川の歴史を取り上げたい。荒川を舞台にした時代小説も書いてみたいなあ」

昨年暮れには、銀座の劇場で、女優の高瀬春奈さんと学者がトークを繰り広げる形式の「歴史ライブ」も成功させ、興味は深まるばかりのようです。

放送作家になってちょうど十年目を迎えましたが、ベテランが多い情報・ドキュメンタリーの分野ではまだまだ若手。「いつかは、自分が一から企画する番組をやりたい」と、意欲満々です。

読売新聞記者・多葉田 聡
力メラ・岡田 元章