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No.83  淡谷 三治(あわやさんじ)

奇抜な歌で人気急上昇
飾らぬ荒川っ子…「ぜひ紅白へ」

「ヘーこきましたね、あなたァー」。思わず顔を赤らめたくなるような歌詞で始まる曲「″ヘーコキ″ましたね」が昨年、十万枚を超えるヒットとなった異色グループMEN'S5(メンズファイブ)のボーカルが、この人。ダークダックス調のコーラスと、ユーモアたっぷりの歌詞のアンバランスに大笑いした人も多いことでしょう。

今年結婚して引っ越すまで三十年問、南千住で育った生粋の荒川っ子。中学のブラスバンド部でサックスを吹いたことから音楽に目覚め、高校卒業と同時に、この道を志しました。サックス奏者として活躍していましたが、プロ仲間が集まって五年前に結成したMEN'S5の初ヒットで一躍有名に。九月に三枚目のアルバム「コスミック・ラブ・モーション」、十一月には新シングル「本当の僕じゃない」を発売。同月三十日に渋谷公会堂でコンサートを開くなど、乗りに乗っています。

「ラジオ番組で取り上げられたのがきっかけでした。有線放送のリクエスト順位が上がるたびに周囲の雰囲気が変わってきました。会社へ顔を出すと、突然、お茶を出してくれるようになったり…」

歌詞と同様、ユーモアを交えた口調。名前も「あわや、惨事」をもじったものです。他のメンバーも盆帆与四(ぼんぼ・よよん)、館一五六七(たちいち・ごろしち)など人を食った名前ばかり。ソウル星という星からやって来た宇宙人を自称しています。しかし、その素顔は、いかにも下町育ちの好青年。今年初めまで同居していた父親が、今回のヒットを人一倍喜んでくれたと話す時は、ほおが一層ゆるみました。

「たくさんの職歴をもつおやじも、芸能界だけは経験が無いもので、心配していました。売れ出した当初は音楽雑誌を毎週買ってきました。口では『オナラの歌ばかり歌いやがって』としか言いませんが、喜んでくれたようです」

ユニークな歌詞を思いつくのは、車を運転している時が多いとか。

「車内に小さなラジカセが積んであり、思いつくと録音しておくんです。仕事帰りにふと歌詞が浮かぶと、用も無いのに高速道路を飛ばし、千葉辺りまで足を伸ばしたりして考えています」

浅草をテーマにした曲はあるのですが、荒川についての曲は、まだ無いそうです。

「中学から区外へ通ったので、小さい時の思い出しか無いんです。でも、最近、杉並区に引っ越して気づいたのですが、町の感じが全然違うんですね。向こうは全くの住宅地という感じ。歌詞は辞書を引いて書くのではなく、自分がふだん使う言葉で書いているつもりなのですが、それも、何事も飾らない荒川で育ったからかもしれません」

芸能界を志すだけあって、子供のころからテレビなどに興味が強かったそうです。

「通っていた瑞光小学校の目の前に元は東京スタジアムがあり、そこで、よくテレビ番組の撮影を眺めていました。ウルトラマンの撮影の帰りに、出演者から小道具をもらったこともあります」

そんな影響もあってか、今一番の目標はNHKの紅白歌合戦への出演。最近は、出演を拒否する若手も多いのですが、「本気です」とキッパリ。

「紅白に出ることは、歌謡曲にとって、売れたことの一番の証。紅白に出られるようになれば、僕たちのバンド自体も、もっと大きくなっているはずです。拒否する人は、代わってくれないかな」

今年の大みそかの予定はしっかりあけてあるそうです。

読売新聞記者・多葉田 聡
力メラ・岡田 元章