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No.78  谷川 真理(たにがわ まり)

「楽しいですね、下町の生活」
アトランタめざし荒川沿いで練習

一九九六年の米国・アトランタ五輪を目指すトップランナーの一人。前回のバルセロナ五輪では、あと一歩のところで出場を逃しただけに、今回に賭ける意気込みは、人一倍強いようです。

「バルセロナでは、日本人選手の応援役でした。女子マラソンで銀メダルを獲得した有森裕子さんは、つらい練習を毎日毎日続けて来たからこそ素晴らしい記録を残せたのだと実感しました。今度は自分もそうなれたら素晴らしいですよね」

普通のOLだった八七年、会社近くの皇居へ花見に出かけた際、お堀端を走る市民ランナーを見て「私も走ってみたい」と思ったのが、マラソンを始めたきっかけでした。高校時代は陸上部で800㍍の選手でしたが、全国的には無名。しかし、昼休みを利用して皇居周回コース(約5㌔を走り始め、初出場の「都民健康マラソン」(12㌔)で、いきなり優勝しました。九〇年、27歳で実業団に入り、遅咲きのデビュー。翌年の東京国際女子マラソンで、フルマラソン初優勝を遂げました。

福岡生まれで、東京・中野に住み始めたのは中学二年の時。一昨年夏、東日暮里に引っ越してきました。「交通が便利な山手線沿いで、下町の方に住んでみたい」というのが動機だったそうです。年四、五回、競技や合宿で海外に遠征するため、成田空港への便が良いことも、荒川を選んだ理由の一つでした。

「住んでいて本当に楽しい所ですね。三河島駅前の商店街は昔からの店が多く、よく散歩します。おいしい焼き鳥屋を見つけたので、時々出かけます。家の近くには生地屋さんがたくさんあって、遠くから買いに来る人に道を尋ねられることもしばしば。私も買いたいなと思いながらも、やり始めると凝ってしまう性格なので、我慢しているんです」

海外遠征から帰ると、必ずコーチと一緒に日暮里駅前の寿司屋に立ち寄るそうです。「二人でどれだけ食べても、せいぜい一万円。食べ物がおいしくて安いのも荒川の魅力です」。

一日30㌔は走るという練習では、慣れた皇居周辺のほか、荒川沿いを走ることもあります。

「河川敷で野球やサッカーをしている人が大勢いるから、走っていても楽しい。直線が多いので、次の橋まで思い切りとばそうなどと考えながら走っています」。通りすがりのランナーから「この間の大会はおめでとう」「次も頑張って」などと声をかけられることも多いとか。

万全の体調で臨んだ今年四月のボストンマラソンで七位に終わり、気落ちした時も、ファンからの手紙が励みになりました。昨年のパリ国際マラソンで2時間27分55秒の大会新記録で優勝した時は、マンションの管理人が掲示板に新聞記事を張り出し、「恥ずかしいけれど、うれしかった」。

市民ランナーヘのアドバイスとしては、「長く続けることに尽きる」と言います。「一日20㌔走っても、次の日にやめてしまっては何にもならない。80%のカで、もう少し走りたいと思うところでやめるのが、明日につながると思います」。

アトランタ五輪の代表を選ぶ選考会は、八月の北海道マラソンを最初に、来年三月まで続きます。どの大会に出場するかは未定ですが、「今しかできない。だから、走るんです」と言う瞳は、しっかりアトランタのコースを視界にとらえているようです。

読売新聞記者・多葉田 聡
力メラ・水谷 昭士