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No.62  松村 克弥(まつむら かつや)

恋愛物よりサイコ・ホラー
記録・短編や"都会の狂気"で受賞

昨年末、テレビ東京の「ドキュメンタリー人間劇場」枠で放送された「たった一人の慶大相撲部」という番組の企画、制作、演出を手がけ、高い評価を得ました。

「いま慶応の相撲部には北見庄吾君という一人の部員しかいません。その北見君の青春を追ったドキュメンタリーでした。何かに打ち込む姿、ひたむきな青春像というか。いま若者たちはいろいろな批判を受けたりしていますが、この、3Kの要素たっぷりの運動に青春を注ぎ込む青年がいることを多くの人に知らせたかったのです」

「自分の青春とオーバーラップさせながら作りました」とも話します。松村さんが通ったのは成城大学文芸学部。大学に入るまでの生活はどんなものだったのでしょうか。

昭和38年に広尾で生まれ、上野・池之端で旅館を営む父の生家で育ちました。荒川へ来たのは10年位前。現在は東日暮里に住んでいます。

「父が上野スター座という映画舘の支配人をしていた関係で、小学校五年のころから映画を見始めまして。一番印象に残っているのは『ローマの休日』です。それから『ポセイドン・アドベンチャー』。あれは最高に映画的感動を受けました」

見た映画は年に百本程度。「多い方ではないでしょう」。また「映画館で見るのが好きで、テレビやビデオで見るのは好きじゃありません」とも。

大学時代は水泳部で水球をやった後に映画研究部へ。8㍉映画に魅力を感じ、「おそすぎた夏」という作品を監督、製作しました。

就職は当初、公務員志望。途中から「映像制作」志望に転じて、毎日映画社に入り、約六年間に、記録映画、短編映画、PR映画など百本ほどの構成、演出、企画、編集などを手掛け、昭和六十三年に「今、なお苦悩は続く……土呂久公害70年」で、毎日映画コンクール・ニュース短編部門のグランプリを獲得しています。

退社後はフリーに。平成四年度のヨコハマ映画祭新人監督賞を受けた「オールナイトロング」(大映制作)が代表作になっています。劇場で上映された後にビデオ化され、今も人気は続いています。パンフレットによると「集団暴行、通り魔殺人。正視に耐えない衝撃シーンに劇場内は悲鳴続出。10代の少年たちのすさまじい暴力本能を赤裸々に描いたニュー・バイオレンス・ムービー」とありますが、そんなすごい作品?

「平凡な少年の持つ狂気とでもいいましょうか。普通の少年が狂気の世界に入っていく様子を描いた作品です。狂気の怖さ、狂気に巻き込まれる恐ろしさを描いたつもりです。私自身は暴力を否定して生きています。都会生活が秘めた暴力って怖いでしょ」

「ラブ・ストーリー、トレンデイーものは好きじゃない」とのことで、「学生映画を作っていた時代から四畳半、下宿、ジーンズ、公園といった設定は大嫌いでした。これからも普通の恋愛映画は撮らないと思います」

目指す作品は、例えば「羊たちの沈黙」「氷の微笑」。サイコ・ホラーと呼ばれる系統の作品だそうで、「アメリカのニューシネマのようなものを」と、やや専門的な話が続き、「時代劇も撮りたいですね」と、大きく夢を広げながら、「『オールナイトロング』の続編の構想を練り始めたところです」と張り切っています。

読売新聞記者・寺村  敏
カメラ・水谷 昭士