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No.49  池田 理代子(いけだ りよこ)

『ベルばら』から20年、いまも多忙
舞踊・歌曲など趣味を大切に

あの「ベルサイユのばら」で知られる劇画家のお住まいは、南千住の一角にある白いマンション。七階を仕事場に当て、その上の八階に住居があります。住んで三年になるそうです。

「大阪に生まれました。柏市が十二歳から三十歳ぐらいまでだったかしら。あとは転々と。引っ越しが好きなんですよ。赤坂、青山、そして目黒区の碑文谷…。ここに越して来て最初はびっくりしましてね。路上に寝てる人がいて、わきには着るものが置いてある。人間はどうやっても生きていくことが出来るんだなと感じたり、ああならないように頑張ろうと思ったり。あの方たちは弱者だと言われていますが、でも女性はもっと弱者だと強く思ったり。勉強になりました」

現在の生活は「お昼ごろ起きて明け方まで仕事」というペース。「ですからね、どこで暮らしていても同じなんですよ。私は」と言った後、次のような言葉が続きます。

「東京には季節の色がありませんでしょ。ですから四季を浅草近くで感じ取っています。。お正月の浅草寺、ほおずき市、酉(とり)の市……。それから待乳山聖天もいいところです。四季のうつろいを行事で見るというのでしょうか。時々、八ヶ岳の別荘に行きます。新緑に紅葉…ここでは『自然』に触れることが出来ます」
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「教科書やノート、カバンから壁にまで女の子の顔やスタイル画を描いていました」という漫画好きの少女は、白鴎高校から学者を目指して東京教育大文学部哲学科に進み、在学中に「愛は永遠に」を描いてデビューしました。そして宝塚歌劇団の舞台でも大ヒットした名作「ベルサイユのばら」で、全国に劇画旋風を起こすことになりますが、この作品は二十年たった今も全国で愛読されています。

"ベルばら"はフランス革命の波の中に生きた女性の悲しみを描いたものですが、今はナポレオンの生涯を描く「エロイカ」を制作中です。

「フランスはあらゆる点でナポレオンに負うところが大きいのに彼は批判的に見られています。世界に及ぼした影響も多いのに、なぜ滅びたか。これを追うのが狙いです」という説明で、もう一作、四天王寺から依頼されて進行中の「聖徳太子」の方は「正史に近いものを描いてみたい」と話しています。
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大きなスケールの物語の中にロマンを漂わせる素晴らしい作品を次々と生み出す創作活動は多忙を極めていますが、最近は出来るだけ趣味に時間を費やすようにしているそうです。

「まず日本舞踊です。藤間流の名取になりまして、来年は国立劇場で『鷺娘』を踊るんです。それと歌、ドイツ歌曲です。高校時代は音大を志望したこともありました。そのほかにピアノや油絵、外国語なども」と話す表情は、それまでの落ち着きから一転、明るく、目がきらきら輝いて見えました。

昭和二十二年生まれ。緑色のセーターに黒いロング・スカート姿の池田さんに「これからは?」と尋ねると「う-ん。わかりません」と言ってから「大きな計画を持っています。でも、そうね。だれにもいわな-い!」

哲学者、音楽家、文筆家を志し、現在は劇画の仕事の合間をぬって雑誌に「名作を書いた女たち」はじめエッセイを執筆する池田さんの「計画」とは、さて?

読売新聞芸能部・寺村  敏
カメラ・水谷 昭士