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No.44  堀 源一郎(ほり げんいちろう)

人工衛星出現が天文学に活
「子供はまず星空を見てほしい」

「小学生のころから、よく物干し台で星を見ていましたね。こう言ってはなんですが、空襲警報の出た時など、一面真っ暗となり、冬はアンドロメダ星雲が肉眼で見え、感激したものです」

こう語る東大名誉教授の堀さんは、昭和5年旧日暮里町6丁目(現・西日暮里1丁目)生まれ、真土小学校出身、荒川育ちの天文学者です。その後、東京市立二中(説・都立上野高校)から旧制一高に進み、学制改革で東大教養学部を再受験、理科甲類(現・一類)へ。そして本郷の天文学科の前身、理学部物理学科の天文で学び、大学院で研究後、東大で長年天文学を教えてきました。現在は富山国際大学教授。

─当時の天文学の人気は?

「一応、3、4倍の競争率でしたが、メシが食えないというので親が反対した持代でした。そのせいか、一くせも二くせもある人間が集まり、学内では、天文はツブシがきくぞと評判でした。現に地震研究所長や気象庁長官も出ています。今は天文学ブームのため入るのが難しくなり、成績がいいから、天文に興味がなくても受けなくては損という傾向もあります。学問研究上は好ましくありませんがね」

─ご専門の天体力学とは?

「天体の星がどう運動するのか、ニュートンの運動の法則などをあてはめて研究します。観測はしないで、昔は紙と鉛筆、今は大型コンピューターを使い、シミュレーションで星の何百万年の動きをあっという間に計算してしまいます」

─比較的地味な学問…。
「私が取組んだころは、解ける問題は全部解かれてしまい、天文学でも取り残された分野でした。それが一変したのは人工衛星の出現です。旧ソ連のスプートニクで先を越されたアメリカが、追いつき追いこせと懸命になって、研究スタッフの充実をはかりました。私も34-36年、アメリカのエール大学ブラウァー教授のもとで研究しました。以後、テキサス大学、アインシュタインも学んだスイス・チューリヒ工科大学でも研究・講義に招かれました」

そこで、堀さんに素人的質問をぶつけました。

─人工衛星は落ちる心配はありませんか。

「実は、少しは落ちています。落ちるというのは地球に近づくこと。人工衛星は横向きの方向でガリレオの慣性の法則で飛んでます。そのままだと地球から遠ざかりますが、自然落下でうまくバランスがとれ、地球の周囲を円軌道を描いて回っているんです」

─突飛ですが、宇宙人も天体力学の対象になりますか。

「広い意味で含まれます。昔は、太陽系は偶然の所産で、宇宙には人間しかいないと信じられてました。今は、太陽系は出来やすいメカニズムがあることがわかっています。太陽系が属する銀河系は二千億個の恒星の集団。銀河系以外の島宇宙は一千億、それぞれ一千億個の恒星の集団なので宇宙人の存在を否定できません。火星は一応生物の存在は否定されましたが、昔、水の流れた跡もあるし、生物の存在はこれからの研究課題です」

─その研究を受け継ぐ人材が育って欲しいですね。

「ともあれ、子どもたちがもっと星や天体に興味をもって、望遠鏡、いや双眼鏡でもいい、星を見て親しんで欲しい。テレビで見るのとは違う感動があります。今は、ブラックホールとか、知識先行気味ですし」

荒川っ子から第二、第三の堀先生の出現が待たれます。

文・真下 孝雄
カメラ・鹿瀬 昌三