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No.182  田中作典(たなかさくのり)

江戸玩具の伝統を独自の手法で今に伝える


仕上げに面相を描く。目の周りに薄紅のぼかしを入れ、耳を赤のエナメルで塗り、胡粉に青色を混ぜた目の縁取りをとって、口、眉、鬚を面相筆で描き入れた後、黒のエナメルを使い、竹の棒を使って突くように瞳を描き入れ、最後に頭と足を塗る。(自宅作業場にて)

江戸玩具のひとつである犬張子の起源は、平安時代に身の汚れや災いを取り除く祓はらいの道具として用いられた狛犬の像にまでさかのぼる。それが時を経て玩具化し、安産祈願や出産の贈り物、子供の健やかな成長を願う飾り物となった。
西日暮里在住の田中作典さんは祖父の代から、三代続く犬張子作り職人。荒川区登録無形文化財保持者として、「あらかわの伝統技術展」にも毎回出展。職人実演コーナーで、その巧みな技術を披露している。

家業を継いで50年、現在は荒川区無形文化財保持者に


左からポチの親子、招き猫、福犬

"張子"といえば木型に和紙を張り合わせて作ったものが一般的だが、田中さんの作る犬張子は、雛ひな人形の手法を取り入れ、桐塑とうそという桐のおがくずをふのりで練ってかたどった生地を使う。これは祖父・信太郎氏があみ出した手法だ。
小刀で生地を整え、膠にかわでといた胡粉ごふんを、地塗り、中塗りし、水拭きしたあと上塗りする。
いくつもの塗りと乾燥の行程は「膠の分量はそれぞれの行程で違うし、季節やその日の天候によっても変わる。長年の経験と勘が必要」と田中さん。

安産祈願や子供の成長を願い愛され続ける犬張子

昭和12年生まれの田中さんは、中学校から帰ると問屋廻りをさせられた。「子供の頃から仕事場には出入りしていました。17歳から本格的に修行を始めましたが、毎晩11時くらいまでは仕事をしていましたね。明治生まれの父は私が20歳の時に他界して、それからは、ずっとこの仕事。もう50年を超えました。」
桐塑の生地を使う独自の手法で犬張子を作るのは全国でも田中さんだけ。それだけに、例えばNHKの大河ドラマやバラエティ番組で小道具として使われていた犬張子を一目見ただけで、「自作のものと分かりますよ。どなたかが、買って使ってくださっているんですね」と田中さん。
今年は戌年ということもあり、伝統的な犬張子はもちろん、オリジナルデザインの福犬やポチの注文も多い。
一つ、ひとつが手作りのため、完成までには半月ほどかかる。形や描き入れた顔は微妙に違うが、どれも生き生きとした表情をしている。田中さんの手による犬張子は、大きさが7センチから24センチまでの7種類。デンデン太鼓を背負ったタイプは7センチから20センチまでの5種類。