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No.178  田村征雄(たむらゆくお)


若いころから絵が好きで、絵画鑑賞を趣味にしていた田村さん

地域文化の向上に日本の代表画家の作品を展示

3年前にギャラリー五蘊洞をオープンさせた田村征雄さん。「還暦が近付き、地域に少しでも貢献できたら」と話す。
荒川区千住大橋の近く、日光街道沿い。落ち着いた雰囲気の中に、近代日本画壇の巨匠・横山大観や美人画で知られる日本画家の伊東深水、現代日本画に新風を吹き込んだ杉山寧、現代洋画家を代表する近馬治らの作品が並ぶ。足を踏み入れた人は「目立たないところに、こんな素晴らしい作品が展示してあるとは」と思わず目を見張る。
田村さんの本業は、建築・不動産業。会社の事務所を改造、通りに面した二十平方メートルほどの広さをギャラリーにした。展示作品は十数点。定期的に入れ替えている。入場は無料だ。
「鑑賞してもらうからには、銀座の画廊と比べて引けを取らないようにしました」と胸を張るだけあって作品や照明などの設備も充実している。


ギャラリー入り口に飾られた少女のブロンズ像が目をひく

地元への愛着にじませる

長く荒川に育った田村さんは「日光街道は思い出いっぱい」と昔を振り返る。「今は、車がひっきりなしに通るが、五十年前は、牛や馬が荷物を運び、その牛馬のわらじを売る店もあった」という。「近所の人からしていいこと、いけないことを学んできました。そんな人情のある街道でした。今、その地域に何かできたらという思いが強いのです」と、地元への愛着をにじませる。
荒川区にはプロの絵を展示している公立の専門の美術館がない。このギャラリーは将来を担う子供たちの教育のためにも、絵画鑑賞のできる場所をと願った結果だ。田村さんは、「絵を買ってもらおうとは思っていません。絵画を投機の対象としている人がいますが、私にとってあり得ないことです。好きで買い求めた絵は値段に関係なく、一生持つものです」と語る。ギャラリーに展示されている高価な絵に対しても「たまたま買った絵が高かっただけです」とさりげない。
「本物の絵をたくさん見てもらって、目を養ってもらえればうれしいし、自分の部屋に好きな絵を飾りたくなるような気持ちになってもらえればいいですね。そうなれば生活に潤いが出てきます。自分の精神状態がどんな時も、絵は応えてくれます。温かく包んでくれて心の安らぎになります。絵は毎日、表情を変えます。上手いとか下手とかではありません。それが絵の魅力です」と根っからの絵画愛好家である。


じっくりと鑑賞できるように作品の間隔も空けている。落ち着いた雰囲気のあるギャラリー内

将来は絵画教室開設も

年2、3回、企画展を開いている。今月下旬からは、作家・水上勉が若狭で漉いた竹紙に、両手を失った画家・水村喜一郎が描く竹紙絵個展を開く。
ギャラリー名の「五蘊洞(ごうんどう)」は経文の言葉から取った。「人間にある五つの煩悩がなくなったら理想です。人間の目指すところですね」と田村さん。
「将来は絵画教室も開いていきたい」と、ギャラリーの展示作品を見ながら思いを馳せる。ガラス窓から小学生の男の子が興味深そうにギャラリーをのぞいた。「私もいつまでも下町っ子でありたいですね」と、田村さんは目を細めて笑った。

問い合わせは、ギャラリー五蘊洞
(荒川区南千住6丁目62―10、 Tel 3603-5627)へ。