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No.174  千脇 隆(ちわきたかし)

夕映えの丘に女性の姿をおだやかな色彩で描く、秋のパリ国際サロンに出品する大作を製作中の千脇さん。(自宅のアトリエにて)

芸術はロマン、天空のそよ風に筆を動かす

西尾久4丁目に建つ総戸数422世帯のマンション「田端スカイハイツ」は、エントランスに写真、油絵、水彩、木目込み人形等の展示ができる「アートギャラリー」のある芸術性の高いマンションとして、近隣の住民から親しまれている。このギャラリーの発起人となったのが、同マンションにアトリエをかまえ、管理組合副理事長も務めた画家の千脇隆さん(73歳)だ。

絵筆を握ったダンス教師

ここに一冊の本がある。「絵筆を握ったダンス教師」(モダン出版)。千脇さんが古稀を迎えるにあたって出版されたもので、武蔵野美術大学を卒業後、画家としてはもちろん、プロのダンス教師として歩んだ道のりが、千脇さんの持つ天性のウィットを交えて楽しく語られている。
美大に進学した際、「絵描きでは食べていけないのに」と、母を嘆かせた。卒業後、学生時代に趣味で始めた社交ダンスを活かしてプロのダンス教師に転身した時も、「女の手を握る稼業なんてご先祖様に顔向けできない」と再び母を嘆かせた。

2000年の引退パーティー
しかし、絵筆を女性の手に握り代えても千脇さんの絵に対する情熱が衰えたわけではなかった。「自分が描きたいと思う絵を一生描き続けるためには、時間が自由になる職業につくことだ」と思い、2足のわらじをはいたそうだ。千脇さんは、自ら北千住と池袋でダンス教室のオーナーとなる。午前中はスタジオをアトリエにして夢中で絵を描き、午後はダンス教師として多くの人に華麗に踊る楽しさを教えた。文筆、作詞でも才能を発揮。月間ダンスビュウ誌に「せんたかし」のペンネームでたびたびエッセイを掲載。作詞した「夢と夢を」「ピッコロピアッジョ」はCD化された。
絵画では「チリ美術賞展」や「フランス・エスパス・ネール展」、「スペイン美術賞展」、「日仏代表作家フランス展」などに出品。2000年にダンス教師は引退したものの、パリ国際サロン日本代表画家として毎年のようにヨーロッパ各国を訪ね、その多彩な活躍ぶりは2003年3月スカイパーフェクトTVでも紹介された

美しい音楽が聞こえてくるような絵画

よい絵を描くために一番大切なことは?
「それは健全な身体ですね」と語る千脇さんは、毎朝ラジオ体操を欠かさず、午前中の2時間を荒川スポーツハウスで汗を流す。「脳と心臓を活性化して、絵筆を握る。すると、描いている絵のほうから、こんなふうに描いてほしい、こんな色を使ってほしいと、私に語りかけてくるんです。私にとって絵を描くことは、天空のそよ風のソナタ(独奏曲)を奏でるのと同じ。美術も、音楽もロマン、ロマンですよ!」。千脇さんの絵はとりわけ、夕映えの残照の美しさが際立つ。千脇さんの秘書をつとめる星宏さんは「多くのお弟子さんが、どんなに真似ても、この色合いを表現することはできません」と言います。
「ヨーロッパには、エントランスにギャラリーがある集合住宅が珍しくない。だから自分の住むマンションにギャラリーをつくりたかった。日暮里のモノレールができたら、各駅のホームに絵手紙専用のミニギャラリーが欲しいですね」と笑う千脇さん。毎年8月、同マンションの中庭で開催されるクラシックを中心に周辺住民が集う「トワイライトコンサート」への協力もおしまない。――「まるで美しい音楽が聞こえてくるような絵画」、「まるで美しい風景が見えてくるような音楽」をこよなく愛する芸術家である。