トップ   >  荒川の人  >  No.166

No.166  村田 朋泰(むらた ともやす)

見る側の心に響く作品づくりを大切にしたい
立体アニメへの熱い思い語る

古い家で独り暮らす老人が、ある日若い頃に先立たれた妻の服を見つけ、ふと昔の記憶をよみがえらせる――。こんな温かくも切ない物語を、人形を少しずつ動かして一コマ一コマ撮影した「立体アニメーション」の短編「睡蓮の人」で、一躍注目の映像作家となったのが、村田朋泰さんです。 人形や背景の細かい造型だけでなく、登場人物の微妙な表情、計算し尽くされた構図や光線が生み出すリアルな質感で、立体アニメの名作と評価されています。

4人兄弟の長男として、西日暮里で生まれ育った村田さん。子どものころは、兄弟たちと谷中銀座や上野、荒川公園などで遊んだとか。画家であるお母さんの影響で通い始めた絵画教室で絵に目覚め、夢は漫画家。芸術にかける厳しい姿勢は、4人の子どもを抱えて昼夜を問わず働いていた一時期にも、絵筆を離さなかったお母さんの姿から学んだといいます。

私大の一般学部に進学したのもつかの間、「自分の場所はここではない」と気付き、3年浪人して東京芸術大学に入学。学部生の時、チェコの映像作家の立体アニメに衝撃を受け、独学で1年かけて完成させた「睡蓮の人」が02年、第5回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門の優秀賞を受賞します。同賞は宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」の大賞に次ぐ賞で、大変な快挙でした。その後も、新進映画作家の登竜門「ぴあフィルムフェスティバルアワード」で審査員特別賞を受賞し、たちまち時の人に。しかし、ご本人は「受賞そのものより、自分の作品世界にたくさんの人が共感してくれたことの方がうれしい」とくったくがありません。「当時は必要な機材もなく、1秒分を撮影するのに人形を15回動かしますが、その時、一緒にまわりのものも動かしてしまったのに気付かず、撮影を続け最初から撮り直す羽目になったこともありました。作品づくりは自分の甘さを痛感し、自分自身の内面を形作る作業でもあったと思います」と振り返ります。

大学院の修了作品「朱の路」では、首席として大学の「買い上げ賞」を受賞、第9回広島国際アニメフェスティバルでも優秀賞を受賞しました。中年のピアニストが、今は亡き娘の思い出をたどる様がほろりと描かれたこの作品もまた、観客の心の琴線に触れます。 村田さんはこれまでの11作品で、登場人物にセリフを与えることなく、表情や仕種で観客に思いを伝えています。

「言葉は"答え"になってしまう。ハリウッド映画の影響で、観客は『ここで泣きなさい』『感動しなさい』と、与えられることに慣れてしまっていると思うんです。でも自分はそこまで押し付けたくない。風で揺らぐ一本の木から、人はどこまで想像できるのか。見る側の想像力をかきたてる余裕を持ちたいんです」

昨年、西日暮里に立ち上げた自分の会社「TOMOYASU MURATA COMPANY.」では今、「路」シリーズ5部作の中の「朱の路」に次ぐ「白の路」を制作中。コマーシャル制作などの誘いは多いものの、地道な自主制作活動を優先したいといいます。

「大掛かりな装置を使った制作や、大スクリーンでの上映に興味はありません。生活の中のふとした瞬間から芸術との接点を見い出し、見る側の心に響くものを作ることを、これからも大切にしたい。自分が芸術作品として作った映像を、欲しいと思った人が購入し、家で鑑賞してくれたらそれが一番。安売りするくらいなら目立たなくていいんです。昨年は、賞をもらったり、大学院を出て会社を立ち上げたり、いろいろな変化がありましたが、これからも自分の意思を明確に持って制作をしていきたいと思います」

村田さんのホームページ http://www.tomoyasu.net