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No.144  安達 利昌(あだち としまさ)

プロ棋士めざす“金の卵”
21世紀、楽しみな小学3年生

昨年、今年と二年連続で「全国少年少女囲碁大会・小学生の部」に出場した。昨年の第20回大会は二回戦で、今年の第21回大会は三回戦で敗退したものの、全国でもレベルの高い都大会を勝ち上がっての全国大会での活躍は「プロ棋士としての才能も十分」と周囲の期待がいっきにふくらんできた。

三人兄弟の末っ子。写真家の父、清雄さん(54)は五、六段の腕前、「人間形成にも役立つし、頭のトレーニングになる」と、子供たちには碁を教えてきた。利昌君は保育園のころには碁を覚え、子供の囲碁指導に熱心な文京区の「呉竹囲碁教室」(3811-4417)の子供教室に兄と一緒に通いはじめた。

教室が開かれるのは月、火、金曜日の午後四時から六時まで。「私が教えているのはシチョウを取る問題と詰め碁だけ。あとは実戦と、打ち碁並べをほんの少し」という師範の大津守史さん(51)の指導であっという間に上の兄弟を抜いてしまった。

そのせいか、石が接触してからの戦いがめっぼう強い。今年の全国大会ではベスト8に入った京都代表に敗れたが、清雄さんは「優勢な碁でしたが、大石を取りにいって負けてしまった。打ち過ぎということです」。

清雄さんによると、利昌君は負けず嫌いで、負けると悔しくて泣いていたこともあるという。棋カが落ちる人と打つと手を抜くこともあるが、強い人と打つと闘志を燃やすという。まさにプロ向きの性格だ。

この八月に区内の「GO好き会」の新潟県・湯沢の合宿に参加、加藤正夫九段に四子の指導碁を打ってもらう機会があった。その時に加藤九段から「プロになる才能は十分」と太鼓判を押された。

「碁を並べていると腰が痛くなる。それよりゲームのほうがいい」と、まだ無邪気。清雄さんは「私はその気になっているんです」というが、問題は本人がいつ〃その気〃になるかだ。

この夏には市ヶ谷の日本棋院で毎週土咤日の午後に開かれている「仁風会」に入り、勉強を始めた。木谷九段ゆかりの囲碁教室でプロ棋士も輩出している。

もう十六年も子供囲碁教室を続けている大津さんも「子供はぐっと強くなる時期があるんですが、才能がある子供でも学習塾があって碁を辞めるケースがあります。そういう意味では安達君は親の理解もあり、私も楽しみです」と期待する。

現在、「呉竹囲碁教室」、「仁風会」のほかに、月二回、土曜日曜にアマ強豪に指導をお願いしている。とはいえ、プロ棋士の世界は、優勝劣敗の厳しい世界。院生試験に合格し、次のプロ棋士試験に合格して始めてプロ初段になる。囲碁は世界中に普及したものの、本家・日本の囲碁碁界は中国、韓国に押され気味。強い棋士を育てるために、小さい時からの教育が大切だといわれている。

今売り出し中の山下敬吾碁聖は、小学二年生で全国大会に優勝し、四年生の時にプロを目指して北海道から上京している。今年の全国大会でも利昌君と同じ三年生二人がベスト8に入っており、こうしたプロを目指す仲間と切磋琢磨していくことだろう。

21世紀、プロ棋士として歩み始める〃金の卵〃はどのように育っていくだろうか。

読売新聞記者・福屋 和憲