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No.123  皆口 裕子(みなぐち ゆうこ)

「3年B組金八先生」子役ファンから劇団入り
七中陸上部、もんじゃの思い出

「どうして、私が荒川に住んでいたことを、ご存じなんですか」

荒川のことを公の場で話したことは少ないそうで、インタビューの冒頭、逆に尋ねられました。「ほっとたうん」の読者から推薦の投書が届いたと伝えると、うれしそうな笑顔がこぼれました。

西尾久で暮らしたのは、中学から高校にかけての約二年と短い間でしたが、記憶は鮮 明です。芸能界に入るきっかけとなった、児童劇団への入団が、荒川の思い出と重なるからです。

「テレビドラマの『3年B組金八先生』を夢中で見ていて、ある子役のファンになったんです。事務所へ行けば、本人に会えるかもしれないと思って出かけたんです」

本人には会えませんでしたが、事務所の女性が「ファンクラブを作るから、連絡先を教えて」と言ってくれました。その後、ファンクラブの話は立ち消えになりましたが、その女性から「よかったら、遊びに来ない」と誘われ、劇団に入りました。

「荒川七中で陸上部に入っていましたが、校庭が狭く、週に二、三日しか練習できなかったんです。だから、部活動みたいな感じで、日曜日だけ劇団に通い始めました。もし校庭が広くて、私が陸上に燃えていたら、この仕事をしていなかったかも」

劇団には、芝居のほかに、外国映画の吹き替えの仕事もありました。初めて声優として出演したのは、恐怖映画の「オーメン」。悪魔の子ダミアンの姉役で、たった一言、「大丈夫、血はもらえるわ」というせりふを、何度も何度も言わされたのを今でも覚えているそうです。

「お芝居は好きだけど、人前に出るのは、ちょっと苦手だったんです。声だけなら、顔を出さずにお芝居できると思いました」

その後の活躍は、女子柔道の世界を描いた人気アニメ「YAWARA!」のヒロイン、柔(やわら)役などで、ご存じの通り。若者に人気の合コン番組「ねるとん紅鯨団」のナレーションでも有名になりました。現在は、フジテレビ「ドクタースランプ」や、NHK教育テレビ「あずきちゃん」などのアニメに出演しています。

荒川の思い出は、実は、小学校時代にまで、さかのぼります。王子に住んでいたころ、区内の親類宅に、よく都電で遊びに来たそうです。

「印象深いのは、何と言っても、あらかわ遊園ですね。王子の飛鳥山で遊んでから遊園に行って、もんじゃ焼きを食べて。当時は、二、三百円で、すごく遊べた気がする」

もんじゃの話になると、思い出は尽きません。

「今と違って、当時は土手を作らず、中に入れるのも切りイカとコーンぐらい。駄菓子屋の店先で、おばあちゃんが焼いてくれました。中学のころには、教室の後ろの黒板に『きょう、もんじゃを食べに行く人』と書いてあって、放課後、皆で食べに行きました。喫茶店に入るのは禁止されていたけど、なぜか、もんじゃはOKだったなあ」

現在は世田谷在住。中学時代の友人も結婚して区外に越したため、荒川を訪れる機会はなくなりました。でも、買い物の時にはスーパーマーケットよりも、下町を思わせる昔ながらの商店街に、ついつい足が向くそうです。

「やっぱり、荒川に住んでいたからかなあ」

よく遊んだ、あらかわ遊園も改装され、きれいになったと聞くと、「懐かしいなー」と、アニメのヒロインのように目を輝かせました。

文・多葉田 聡
カメラ・岡田 元章