トップ   >  荒川の人  >  No.93

No.93  柴田 麗子(しばたれいこ)

好きな<海>で連続入選
在住20年「荒川も描きたいですね」

南千住七丁目の自宅マンションと同じ建物の中にあるアトリエを訪ねると、漁港を描いた大作の油絵がずらり。PR会社の取締役として忙しい毎日を送るかたわら一九九二年から三年連続で日展洋画部門に入選という快挙も、この部屋から生まれました。

「絵を描き始めたのは一九八〇年、三十一歳の時。気分転換のため仕事関係以外の人たちと出会いたいと考えていました。台東区谷中の出身なので、書道を教えてくれる近所のお寺なども探したのですが、新聞で三越文化センターの内山孝先生の油絵教室を知り、通い始めました。老後に一人でできるものはないかな、という気持ちもありましたね」

それまでは、絵画の経験は全く無かったそうです。もっとも、小学三年の時、全国コンクールに入賞したと言いますから、才能には恵まれていたのかも。

「でも、最初の一年は先生から放って置かれたんですよ。油絵の具をどうパレットに並べてよいかも分からないぐらいで。後から先生に『最初のころは手がつけられなかった』と言われました」

ところが、八五年、本格的に習い始めて六年目で、港を描いた「春閑」が日展に初入選。急速の進歩ですね。

「美大を出て苦節十年で入らない人もいるのに、よもや入選するなんて。連絡を受けても信じられなくて、上野の東京都美術館まで確かめに行きました」

その後、しばらくは入選できないスランプが続きましたが、このアトリエを構えたころから三年連続の入選。作品はいずれも岩手・陸中海岸の田老港を描いたものです。一貫して海、それも船のある港の風景にこだわっています。

「内山先生に海の絵が一番いいと言われたこともありますが、若いころダイビングをやっていたので、海には親しみがありますね。船を描くのは、いろいろな色が欲しいからかもしれません」

温かみのあふれる、その作品のいくつかは区内の施設に展示されています。九二年の入選作「田老港初夏」は区役所一階、九四年の「明るい港」は東尾久のアクト21(男女平等推進センター)で見ることができます。また、区内の知人に頼まれ、描いてあげることも多いとか。

「たばこ屋のおばさんが『ほっとたうん』の記事で私の絵のことを知って、アトリエに招待したら、一作欲しいと言われたりして・・・。あと三年ぐらいで個展を開きたいと思っているんですが、絵の好きな方にお譲りしたりしていると、なかなか描きためられません」

平日は遅くまで仕事、日曜は油絵教室に通い、アトリエでゆっくり絵筆を握れるのは土曜日だけという毎日では無理もありません。でも、現在のマンションに住み始めて約二十年。そろそろ、荒川をテーマにした絵も描きたいと言います。

「せっかくだから、川を描きたいんですが、パノラマのような風景が多く、メリハリが少なくて。川の向こう側の足立区から見た景色の方が良いかもしれません。水のそばで遊んでいる子供たちを描けたら、うれしいですね」

三作の日展入選を生んだ田老の港へは毎年のように出かけていましたが、最近は少し足が遠のいているとか。

「今年の秋口には、ぜひ行きたい。それに、新潟方面にも良い漁港があると聞いていますし」

漁港を描いた新作はもちろん、荒川の絵もぜひ早く見せてもらいたいものです。

読売新聞記者・多葉田 聡
カメラ・岡田 元章