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No.37  城戸 真亜子(きど まあこ)

マルチ型で下町大好き
「増殖・拡散する自分が面白いの」

「あなたのご職業は?」

のっけからの質問に、少しいたずらっぽくほほえむと、静かに「キドマアコです」。

TBS「三時にあいましょう」の司会者、NTV日曜夜の「知ってるつもり」のパネリストと、レギュラーのほかにもクイズ番組などで才気煥発(かんぱつ)ぶりをいかんなく発揮しているマアコさん。

本業は、写真でご覧の通り画家ですが、対策の屏風仕立て「源氏物語」に三年越し取り組みながら、一方でホテルの総合アートプロデュースを手がけたり、KIDOブランドのデザインやらビデオ制作、頼まれればエッセイも書き、作詞も。そのうえ一昨年、十年間のパートナー、事務所代表の吉田裕史さんとの愛を実らせたので、「家事もちょっぴり」。

いったい一日、一週間をどう時間配分しているんでしょうか。お昼にスタジオに入って
帰宅がだいたい十時。それからアトリエにこもって夜中じゅう制作で…。

「でも、こういう暮らしが日常化して、リズムができあがってますから。マルチ人間とか言われますけど、今度はテレビ、今度は絵と、わざわざ切り替えようとすると『さあ、やんなくっちゃ』って緊張する。でも、常にいろいろ並行して生きてる感じだと、別段ストレスもたまらないし疲れもしません。今の、こういう暮らしが面白くって」

なるほど。「ただ、今年はもう少し絵をかく時間を増やしたいとは思ってますけど」

小学校の時から将来は美大に入ると決め、その通り一九八〇年、武蔵野美大油絵科へ進学しましたが、一七〇センチの長身と美貌から化粧品会社のCMに登場、それがきっかけでテレビの仕事がつぎつぎに。中学、高校と女子校育ちだったので、共学の大学に入ってすごいカルチャーショックを受けたとか。「もっと世の中を知らないと絵がかけないと思って」テレビ界に。

「何年聞かは悩みましたけど、自分は絵かきだという自負が支えになりました。〈見られる)仕事をしてると、絵画という〈見せる)仕事をするのに参考になるんです」

美大を七年間頑張って卒業すると、すぐに兵庫県宝塚市の観光百年記念事業のアートプロデュースを担当したり、長大な壁画から、様々な立体作品、版画まで創作意欲が爆発したような活動ぶり。「自分がアメーバのように分裂増殖し、拡散してあちこちに飛び散る。テレビに出てる自分も断片の一つですし、そういう自分がとっても面白いんです」

昨春、作品集「伽羅(きゃら)」を出しました。才能も色彩もきらきら輝く本です。とりわけ赤系が目につきますが、「これはアジアの色。タイを旅行してから、変わったんです。私にはやっぱりアジアの血が流れてるんだって」

町屋文化センターに近い荒川四丁目のマンションにアトリエ、南千住に住まいと、荒川区の住人になって丸二年。

「いい町ですねえ。人情が違う。買い物に行くとコンビニ店でさえ『寒いっすねえ』なんて一声かけてくますし売り場を尋ねれば、戻ってきた時『ありましたあ?』って、もう一度聞いてくれるんです」

あちこちに植木鉢がいっぱいの風景も大好きだし「何か失われたものを思い起こさせてくれる。町が生きているんです」と、画家らしい感性で、大満足の様子です。

「そのうえ、主人は今、柳家三亀松さんの都都逸に熱中してましてね、二人して、もう下町に夢中なんですよ」

アトリエで作品に囲まれながら、マアコさんは幸せそうに語り尽きませんでした。

読売新聞記者・江口裕子
カメラ・水谷昭士