大学でタイトル17個の大器
小さな声、ユーモラスな話ぶり
昨年十二月、東日暮里に新築された元横綱三重ノ海の武蔵川部屋は、地上三階、地下一階の堂々たる建物です。
玄関を入ると正面に広い稽古場があり、土俵中央の土盛りに真新しい御幣がつきささっています。
午後二時、部屋の力士たちは、みんな昼寝中だそうで、シーンと静まり返っています。
まだ眠いのでしょう、目をこすりながら、黒いTシャツ、トレパン姿の林が、アンコ型の巨体(一八四センチ、一六○キロ)をゆさぶって現れます。
ことしの春場所(大阪)が、初土俵でしたが、さる九月の秋場所では、見事に幕下優勝を果たし、わずか四場所で十両に昇進というスピードぶりです。
おまけに設立九年目の武蔵川部屋では、はじめての関取誕生です。でも本人はメガネの奥の細い眼を一層細くして笑っただけでした。
学生時代から怪物とか大器とかうたわれた成績をみれば、関取昇進は、当たり前のことかもしれません。
和歌山県で生まれ、ご両親はごく普通の体なのに、林正人君は小学校六年の時すでに一七〇センチ、八二キロの怪童に育っていました。御坊中学、栃乃和歌のいた箕島高を経て近畿大学へ進み、昨年十一月の全国学生選手権に優勝、学生横綱になりました。
大学時代にとったタイトルは十七個、近大の先輩元大関の朝潮をしのいで学生史上二位の立派な成績を残し「力は朝潮以上、三役間違いなし」といわれた逸材です。
巨体に似合わず、小さな声でしゃべりますが、なかなかユーモラスな答えが返ってきます。
プロとアマの違い
「立ち合いの早さ、前へ出てくるパワーの強さ…そこが違う」
朝から晩まで
「六時半から十時まで稽古、食事のあと寝て三時に起き、掃除してからトレーニング、トレーニングのない時は、ブラブラゴロゴロ…」
(地下一階にはジム顔負けのトレーニング室があって、筑波大の専門家が、個人別メニューをつくり、指導に当っています)
立ち合いの時の気持ち
「いろいろ考えても、もうおそい。何にも考えない。無心です」
稽古は?
「嫌いです。ゴロゴロしてるのもいや。世の中、楽な仕事はないですね。(笑いながら)デスクワークに向いてたんじゃないかな、ぼくは」
来場所からの醜名(しこな)は
「大輝煌(だいきこう)。中国にくわしい友人が、中国の偉人の名前からとって、つけてくれました。輝という字が好きです」
将来は三役、横綱を
「そんな自信、まだありません。そう簡単にいけるとは思ってもいないし…」
九州場所の番付が発表になると、二十三歳のこの若者は、関取にふさわしい待遇を与えられます。
付け人が三人、食事は給仕される側、風呂では"流し"がつき、土俵入りには化粧回しが許される…など。幕下とは雲泥の差です。
世界タイトルをとったレパード玉熊と同じように、荒川の住人大輝煌の活躍に声援を送りましょう。
文・篠原大