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No.14  高橋 幸二(たかはし こうじ)

吉村選手もビックリ
ホームランなんて当たり前

ウヘェー、でっかいなァーと思わず声をあげてしまいました。とても小学六年生には思えません。

身長一六七センチ、体重八〇キロの堂々たる体格、まさに怪童です。その体に似合わず、小さな優しい声で「幼稚園のころはごく普通だったけど、小学校へ入ってから大きくなっちゃった」と言います。

父親の勝彦さん(四六)は「オレはチビだけど、女房(清子さん(四二)のおやじが福島県の田舎で草相撲の横綱を張ってたんです。その血を引いてるんじゃないですか」と説明してくれました。

野球好きも血筋らしく、お兄さんの博勝君(一九)も、土浦日大高校の四番バッターで捕手でした(今は社会人)。

小さいころから、お兄さんの野球をいつも見ていて、自然に体が野球を覚えたのでしょう、小学一年生の時、荒川区の少年野球チーム「荒川コンドル」に"入団"して以来、メキメキ頭角を現し、昨年は、東京を代表するチーム「オール東京」のメンバーに選ばれ、キャッチャーで四番、しかもキャプテンという重責を見事に果たしたのです。

この「オール東京」は、東京、北京、ニューヨークの三都市が、毎年交歓している少年親善野球に出場するチームで、都内から十六人しか選ばれません。

昨年はイベントのちょうど十周年でしたが、例の天安門事件などで、中国のチームが参加できなかったため、アメリカチームと後楽園のドームで四試合を戦い、三勝一敗で東京が勝ちました。

残念ながらその時は、ホームランはでませんでしたが、お兄さんと同じニックネームのブッチャーこと幸二君のホームランは、有名です。

彼が打席に立つと、外野手は塀ぎりぎりまでさがりますが、その頭上をライナーで越えていくそうです。

仕事(町屋四丁目で理髪業)で試合を見られない勝彦さんは、おみやげはホームランだよ、と幸二君に言います。が、幸二君はめったに報告しません。

「二打席連続ホームランとか満塁ホームランのときだけは、知らせます」-それ以外はもう当たり前と本人は思っているようです。

好きなことは、いやだというまでトコトンやらせる、という教育方針の勝彦さんは、ちょっと変わった鍛え方をしています。

長男の博勝君には、小さな大豆の豆を一粒ずつ打たせ、それが真二つに割れるまで続けさせました。

幸二君には、水につけたスポンジボールをシンでとらえるまで打たせるとか…この父にしてこの子というか昔の剣術の師弟を思わせます。

幸二君を"診断"した巨人軍の吉村外野手は、すばらしい、直すところはない、と称賛した-そう話す六年チームの監督門井秀夫さん(五二)は「打ってよし、走ってよし、走者を二塁の二メートル手前で刺す強肩、都内随一でしょう」と太鼓判を押します。

四月に中学へ進む幸二君の将来の夢は「甲子園です」ときっぱり言いました。頑張れ!幸二君。

ところで、コンドルの総監督小嶋邦男さん(四九)は「親が子離れしないから子供が集まって来ない、チームづくりが大変です」とこぼしていました。小嶋さんに代わって、お母さん方のご協力をお願いしておきます。

文・篠原大